爺になると

 全然知らない人とも平気で話せるようになる。
地下鉄を降りて、スーパーへ昼飯を買いに歩いていると、細い小柄なおばあさんが身をかがめて、スマホを捧げている。
何をしているのかと思ったら、その先に大きな牡丹の花が咲いていて、そのおばあさんは写真にしているのだった。
考えてみると、おばあさんたちはスマホを持って出るようになって、気楽に写真を取るようになった。
楽しみが増えて、こりゃ長生きするもんだなぁと思っているんじゃないかなぁ。
上野のお山では金を払わないと牡丹園に入れないから、もう随分何年も牡丹の花を見たことがない。
カメラを取り出して構えながら「きれいな牡丹ですねぇ」と声に出したら、おばあさんも「本当にねぇ」と相槌を売ってくれた。「お山に行ったら金を出さなきゃなりませんからねぇ」といってシャッターを押したけれど、そのおばあさんの顔も見ていなかった。すみませんでした。