事件

ひとりの老人が死んだ。
撃たれたのだ。
それもいつもの得意の絶頂で、どうだと見栄を切らんとするときに、後ろから来た男が撃った。
2発目を胸に受けて、倒れた。
大量の出血である。
救急車が来ても運び込む先がなかなか決まらないというその辺の爺さんと違って、彼はドクターヘリで運ばれた。
医大の屋上に直にヘリは降りた。
50本もの輸血が処置された。
つまりダダ漏れだった。
処置のしようのない状態だったのに、後々のことを考えて、どんどん輸血した。

最後に彼がみた景色はなんだっただろう。
彼がやった全てのことを彼は全力を挙げて、周りの人間に守らせた。
どんな犠牲が出ようと、彼は知らぬ存ぜぬを貫き、時には鼻先でせせら笑いながら否定をし、逃げてきた。
しかし、今度は誰も守ってくれなかった。

誰も守ってくれなかった。